AGAの原因(男性ホルモン等)を理容師が分かりやすく解説

40年間、お客様の髪と向き合ってきた理容師のマスターユウキです。

長年の現場経験の中で、多くの男性が薄毛や抜け毛に悩まれている姿を見てきました。「最近、髪が薄くなってきた気がする」「シャンプーのたびに抜け毛が増えた」そんな不安を抱えている方は本当に少なくありません。

成人男性の約3人に1人は、AGA(男性型脱毛症)だと言われています。しかし、その原因やメカニズムを正しく理解している方は意外と少ないのが現状です。また誤った方法で薄毛対策に取り組む方もおられます。

この記事では、理容師として培ってきた知識と経験をもとに、AGAの原因を分かりやすく解説していきます。男性ホルモンの働きから遺伝的要因、生活習慣まで、薄毛の根本的な原因を知ることで、適切な対策への第一歩を踏み出しましょう。

目次

DHTとテストステロンの相互作用が原因

DHT
AGAの最も大きな原因は、男性ホルモンの一種である「DHT(ジヒドロテストステロン)」です。このDHTこそが、薄毛の主な原因物質なのです。

テストステロンからDHTへの変換

まず、男性ホルモンの「テストステロン」は、皆さんもよく耳にする言葉だと思います。このテストステロン自体は、筋肉の発達や骨の強化など、男性らしい体づくりに欠かせないホルモンです。

ところが、このテストステロンが頭皮にある「5αリダクターゼ」という酵素と結びつくと、より強力な男性ホルモンであるジヒドロテストステロン(DHT)に変換されてしまいます。この変換こそが、AGAの引き金となるのです。

DHTが毛根に与えるダメージ

5αリダクターゼ
生成されたDHTは、毛乳頭細胞にある「アンドロゲンレセプター(男性ホルモン受容体)」と結合します。この結合が起こると、髪の成長期が極端に短くなってしまうのです。

通常、髪の毛は2年から6年かけて成長しますが、DHTの影響を受けると、わずか数ヶ月から1年程度で成長が止まってしまいます。その結果、太く長い髪が育たず、細く短い髪ばかりになり、産毛のような髪も増え、そして最終的には毛根自体が休眠状態になってしまうのです。

理容室でのカット等の施術中、髪や頭皮を触らせていただくと、この変化を実感することがあります。健康な髪の毛根はしっかりと頭皮に根付いていますが、AGAが進行している部分の髪は明らかに細く、弱々しくなっているのが分かります。

遺伝的要因によるAGAリスクとは

「父親が薄毛だから、自分も将来薄毛になる」という話を聞いたことがあるでしょう。実は、これには科学的な根拠があります。

母方の遺伝子が鍵を握る

意外に思われるかもしれませんが、AGAの遺伝は母方の影響が大きいとされています。アンドロゲンレセプター(男性ホルモン受容体)の感受性を決める遺伝子は、X染色体上に存在します。男性はX染色体を母親から受け継ぐため、母方の祖父が薄毛の場合、その影響を受けやすいのです。

もちろん、父方の遺伝も無関係ではありません。5αリダクターゼの活性度に関わる遺伝子は、父親からも母親からも受け継がれる可能性があります。

遺伝だけがすべてではない

長年の経験から申し上げると、遺伝的要因を持っていても、必ずしも全員が薄毛になるわけではありません。同じ兄弟でも、片方は薄毛、もう片方はふさふさというケースを数多く見てきました。母方父方のどちらも薄毛の人がなくても「何故か私だけ薄毛になってしまった」というお客様もいました。

遺伝はあくまで「なりやすさ」を示すものです。遺伝的リスクがあっても、適切なケアと生活習慣の改善によって、進行を遅らせることは十分に可能です。諦めずに、できることから始めることが大切です。

ストレスがAGAに与える影響とは

現代社会において、ストレスは避けられないものです。しかし、このストレスが髪の健康に大きな影響を与えていることは、あまり知られていません。

ストレスホルモンと血行不良

強いストレスを受けると、体内では「コルチゾール」というストレスホルモンが分泌されます。このホルモンが長期間にわたって高い状態が続くと、自律神経のバランスが崩れ、血管が収縮してしまいます。

頭皮の血行が悪くなると、毛根に必要な栄養や酸素が十分に届かなくなります。その結果、髪の成長サイクルが乱れ、抜け毛が増加するのです。

ストレスが引き起こす悪循環

さらに、ストレスは睡眠の質を低下させます。睡眠中に分泌される成長ホルモンは、髪の成長にも重要な役割を果たしているため、睡眠不足は直接的に髪の健康を損ないます。

理容室で接客していると、「最近、仕事が忙しくて」「家庭でストレスが多くて」とおっしゃるお客様で、抜け毛や髪質の変化を訴えられることが少なからずあるような印象です。

ストレス対策の重要性

ストレスを完全になくすことは難しいですが、適度な運動、趣味の時間、十分な睡眠など、ストレスを解消する方法を見つけることが大切です。深呼吸やストレッチなど、簡単にできるリラックス法を日常に取り入れるだけでも、頭皮環境の改善につながります。

環境要因と生活習慣の関係について

AGAの進行には、日々の生活習慣や環境要因も大きく関わっています。毎日の積み重ねが、髪の健康を左右するのです。

食生活が髪に与える影響

髪の毛は「ケラチン」というタンパク質でできています。そのため、タンパク質が不足すると、髪の成長に必要な材料が足りなくなってしまいます。

また、亜鉛やビタミンB群、鉄分なども髪の健康に欠かせない栄養素です。インスタント食品やファストフードばかりの食生活では、これらの栄養素が不足しがちになります。

理容室で「最近、髪が細くなった気がする」とおっしゃるお客様に食生活を伺うと、栄養バランスが偏っているケースが少なくありません。

喫煙と飲酒の影響

喫煙は血管を収縮させ、頭皮への血流を妨げます。タバコに含まれるニコチンは、毛細血管を細くし、毛根への栄養供給を阻害してしまうのです。

過度な飲酒も要注意です。アルコールを分解する過程で、髪の成長に必要なアミノ酸やビタミンが大量に消費されてしまいます。適量であれば問題ありませんが、毎日の深酒は髪にとってマイナスです。

紫外線と頭皮環境

意外と見落とされがちなのが、紫外線の影響です。頭皮は体の中で最も太陽に近く、紫外線を浴びやすい部位です。強い紫外線は頭皮にダメージを与え、炎症や乾燥を引き起こします。

特に薄毛が進行している部分は、髪による保護が少ないため、紫外線の影響を受けやすくなります。外出時は帽子をかぶるなど、紫外線対策を心がけることが大切です。

睡眠の質と成長ホルモン

髪の成長に欠かせない成長ホルモンは、主に深い睡眠中に分泌されます。「午後10時から午前2時がゴールデンタイム」という話を聞いたことがあるかもしれませんが、これは大昔からの神話です。

終夜営業のスーパーやコンビニが当たり前になり、働き方も多様化した現代社会において、誰もが午後10時に就寝できるわけではありません。実は、成長ホルモンは眠りに入ってから最初の4時間が分泌のピークになります。

つまり、何時に寝るかよりも、入眠後の睡眠の質を高めることが重要なのです。深くぐっすり眠れる環境を整え、質の良い睡眠を確保することが、髪の健康維持に直結します。
不規則な生活や睡眠不足は、ホルモンバランスを崩し、髪の成長サイクルを乱してしまいます。自分の生活リズムに合わせて、質の良い睡眠を取る工夫をすることが大切です。

薄毛の進行段階と特徴

AGAは段階的に進行していきます。早い段階で気づくことができれば、適切な対策を講じることが可能です。

ハミルトン・ノーウッド分類

医学的には、AGAの進行度を「ハミルトン・ノーウッド分類」という基準で7段階に分けています。理容師として、この分類を知っておくことで、お客様の状態を正確に把握できます。

・初期段階(Ⅰ型~Ⅱ型)
生え際が少しずつ後退し始める段階です。額の両端、いわゆる「M字部分」が徐々に薄くなってきます。本人も周囲も、まだ気づかないことが多い段階です。

・進行期(Ⅲ型~Ⅳ型)
生え際の後退が明確になり、頭頂部にも薄毛の兆候が現れ始めます。髪のボリュームダウンを自覚し始める時期です。この段階で気になるお客様が最も多いです。

・中期~後期(Ⅴ型~Ⅶ型)
生え際と頭頂部の薄毛が進行し、やがて繋がってしまいます。側頭部と後頭部にのみ髪が残る状態になっていきます。

進行スピードの個人差

AGAの進行速度は人それぞれです。数年かけてゆっくり進行する方もいれば、1年程度で急速に進行してしまう方もいます。

40年間の経験から言えることは、早期発見・早期対策が何よりも重要だということです。「ちょっと気になるな」と感じた時点で、専門家に相談することをお勧めします。

AGAと円形脱毛症の違いとは


「薄毛」と一口に言っても、AGAと円形脱毛症では、原因も対処法もまったく異なります。正しく見分けることが、適切な対策の第一歩です。

原因の違い

・AGAの場合
前述の通り、男性ホルモン(DHT)が主な原因です。遺伝的要因が強く、進行性の特徴があります。

・円形脱毛症の場合
自己免疫疾患の一種で、免疫システムが誤って自分の毛根を攻撃してしまうことが原因です。ストレスが引き金になることもありますが、AGAとはメカニズムがまったく異なります。

脱毛パターンの違い

・AGAの特徴
生え際や頭頂部から徐々に薄くなっていきます。脱毛部分と健康な髪の境界は比較的なだらかで、時間をかけて進行します。

・円形脱毛症の特徴
コインのような円形または楕円形に、突然髪が抜け落ちます。脱毛部分と健康な髪の境界がはっきりしており、比較的短期間で発症します。頭皮のスコープを見るとプツッと根元で切れた毛髪もあります。

治療アプローチの違い

理容室で施術をしていると、円形脱毛症とAGAを混同されているお客様に出会うことがあります。

円形脱毛症は皮膚科でのステロイド治療などが効果的と言われています。しかし、経験上ほとんどの方は自然に元に戻っています。その期間は様々で、早い方は2~3ヶ月ですっかり戻る方もいますが、1年以上や別の場所に新たな円形ができてかなりの時間を要する方もいました。

一方、AGAは専門のクリニックでの投薬治療や、生活習慣の改善が中心となります。

自己判断せず、気になる症状があれば、まずは専門医に相談することが大切です。

頭頂部・生え際の薄毛の違い

頭頂部生え際薄毛
同じAGAでも、薄毛が始まる場所や進行パターンには個人差があります。部位による違いを理解することで、より効果的な対策が可能になります。

生え際(前頭部)の薄毛

・特徴
いわゆる「M字ハゲ」と呼ばれるタイプです。額の両サイドから後退していくため、見た目の変化に気づきやすい部位です。

・原因
前頭部は5αリダクターゼ(特にⅡ型)の活性が特に高く、DHTの影響を受けやすい部位です。また、表情筋の動きによる物理的ストレスも関係していると考えられています。

・対策のポイント
生え際は血行が悪くなりやすい部位でもあります。頭皮マッサージで血流を促進し、育毛剤などを使用する際は、しっかりと生え際まで塗布することが重要です。

頭頂部(つむじ周辺)の薄毛

・特徴
「O字ハゲ」と呼ばれる薄毛です。自分では見えにくい部位のため、家族や理容師などに指摘されて初めて気づくことが多いです。

・原因
頭頂部も5αリダクターゼが多く存在する部位です。加えて、重力の影響で血流が悪くなりやすく、栄養が届きにくいという特徴があります。

・対策のポイント
定期的に鏡で確認する習慣をつけることが大切です。また、長時間同じ姿勢でいることが多い方は、首や肩の血行を良くすることも効果的です。

複合型の進行パターン

実際には、生え際と頭頂部の両方から同時に薄毛が進行するケースも多く見られます。この場合、より広範囲でのケアが必要になります。

理容室での施術時に、「最近、分け目が目立つようになった」「ボリュームがなくなった」という声を聞くことがあります。こうした小さな変化が、薄毛進行のサインかもしれません。

まとめ

40年間、理容師として多くの方の髪と向き合ってきた経験から、AGAは決して珍しいものではなく、正しい知識と適切な対策で向き合えるものだと確信しています。

AGAの主な原因は男性ホルモン(DHT)ですが、遺伝、ストレス、生活習慣など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。大切なのは、これらの原因を理解し、自分に合った対策を講じることです。

早期発見・早期対策が何よりも重要です。「ちょっと気になるな」と感じたら、ぜひ専門家に相談してください。理容室でも、日々のケア方法や生活習慣のアドバイスなど、お手伝いできることがたくさんあります。

髪は、その人の印象を大きく左右する大切なものです。諦めずに、できることから始めていきましょう。私たち理容師も、皆さまの髪の健康をサポートし続けます。

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